後はその刃を、どこか急所にでも刺せば終わるはずだった。
「……、っ」
そのとき微かに兜から呻き声が響いた気がして、ウォーリアオブライトは剣を握る力を弱める。
青く澄んだ瞳はとっくに濁りきっていたが、勇者にはまだ僅かに命の灯火が残っていた。
「何か、言い残したことがあるのか」
気を抜けばそのまま崩れ落ちてしまいそうになるのをぐっと堪えながら、ウォーリアオブライトはガーランドの傍に剣を立て、膝をつく。
猛者の頭に顔を近づけると鉄屑の生々しい臭いがした。
轟々と、砕き抜かれたカオス神殿の上空を生ぬるい風が音をたてる。
血で湿り気を帯びたウォーリアオブライトの長い髪が風に絡まれて、だらりと彼の視界を遮った。
不意に衣服を引かれた感覚がして下を向くと、血に塗れたガーランドの指が薄汚れた白い裳裾を掴んでいた。
最後に宿敵が生きているのか確かめたかったのだろうか、普通ならばその手をはねのけてとどめに首を刎ねれば良かったのだろう。
しかし、ウォーリアオブライトは剣から手を離し、猛者の手をそっと握りしめた。最早指先の感覚は朧げで、ガーランドの手が温かかったのか冷たかったのかさえ分からない。
少し遅れてガーランドの手がぴくりと動き、自らの手を残り僅かな力で握り返してくれたことにウォーリアオブライトは名も知れぬ胸の痛みを感じた。
「…………」
言葉はもう届かない。だが、その言葉は確かにウォーリアオブライトの胸に響いた。
荒涼とした瓦礫の中を駆け抜ける風の音はもう聞こえない。
頬に張り付いた髪は血が固まったのだろう、風に吹かれても揺れもしない。朦朧とする意識は、風に煽られているからなのか、それとももう自分の灯火も風に消されかけているからなのか。
どさり、と。
まるで眠るように猛者の亡骸に倒れこんだウォーリアオブライトは静かに息を引き取った。
最後に彼の意識に映しだされたのは、仲間との楽しい思い出でも戦いのつらく悲しい蟠りでもなかった。
(今だけで、よい)
闇にのまれゆく意識の中で、胸に響いたその一言が暖かく優しい光のように灯っていた。 |