寒い冬も終盤に近づいた頃、町は賑わっていた。
一年に一度、思いを寄せる異性に花やチョコレートを贈る日が訪れていたからだ。
ウォーリアオブライトも部下たちや上司、コーネリア王に感謝の言葉を述べ、帰路につく。
いつものように馴染みの花屋で花を買うと、何も言わなくとも店の主人が赤い色鮮やかな薔薇を花束にしてくれた。
まだ開きかけの上品な花束は、自分が持つには少し不似合いに思えて、ウォーリアオブライトは視線を泳がせた。
「自信を持って。あなたの大切な人は、きっと、とても幸せよ。だって、あなたがどんな状況でも、毎年必ずこの花を贈るから」
美しく長い金髪の女性は、とある時期から(もういつからかは覚えていないが)この店にいる。
とても整った容姿は女神か天使かを思わせたが、ごく普通の女性のようだ。
名も知らぬこの女性は、ウォーリアオブライトが信頼できる数少ない一人である。
彼女の言葉は少ないが、話していると必ず前を向けるようになる不思議な力を秘めていた。まるで一筋の光でも宿しているかのように、心に希望が見えてくるのだ。
突然、口唇に何かが触れた気がして目を開けた。……いや、開けられなかった。
これは俗に言う金縛りなのだろうか。しかしその割に息苦しさや身体の痛みは全く感じない。まるでまだ眠っているかのようだ。
突然誰かの乾いた指が口唇を何度か撫でたかと思えば、温かい吐息が鼻に触れて口唇を塞がれる。ああ、そうだ。この匂いは……この口唇は、
「ガーランド……!」
今度こそ目を開けて、視界に入ったのは一面の緑と、斑に混じる白い墓石。
背筋がゾクリと冷えて、背後にあるのが何なのかを今思い出す。そうだ、自分はとうの昔に眠ってしまった男に花を贈りに来ていつの間にか眠ってしまったようだ。
昔この日に彼がよく贈ってくれた甘い匂いの花。何を意味するのか分からず、当時は首を傾げて受け取るだけだったけれど。
「いつか、またお前からこの花を受け取れる日を待っている。……私は、待っているからな」
白い墓石に置かれた赤い花が美しく映える。甘い香りは自分にもここで眠る男にも全く似合わないものだが、今日くらいは良いだろう。
「おやすみ、また明日に」
墓石に口唇を落とし、ウォーリアオブライトは背を向ける。
ガーランドは、本当に彼に会いに来たのかもしれない。
(———待たずとも、今年の分はもう贈ったぞ)
起きる前にキスをされた口唇は、いつの間にかしっとりと鮮やかに色づいていた。 |