orchid gray

コーネリア城へ続く路地がぼんやりと白く霞んでいる。
人の姿はまだまばらで、鉄靴の硬い音が朝露に濡れた煉瓦の中に消えてゆく。

「きれいな花が入ったんだ。どうだい、素敵だろう?」
穏やかな初老の店主が珍しく声をかけてきた。見ると、可憐な白い花々が、環のように連なって咲き誇っている。花の中心は鮮やかな黄金色で、ウォーリアオブライトは目を細めた。
「この花は、」
「気に入ったかい? ほら、花びらが可愛いだろう」
店主は柔らかな曲線を描いた花弁をそっと撫でながら、まるで天使の羽のようだろうと呟いた。
「この花はね、白い天使の羽と金色の天使の冠が集まった花だと言われているんだ。それがこうやって丸く繋がって咲いているから、終わりのない祝福、あるいは永遠の愛の花と呼ばれているんだよ」
毎朝、どんな天気であろうとも欠かさずに花を買う理由を店主は問わない。店主も何となく何か察しているのだろう、店に行けば必ず花を売ってくれる。

「今日はいつもの白い花二種類と、それから青い花を少し多めにしておいたよ。よく晴れるみたいだからね、空の色に合うだろう」
「あなたにはいつも感謝している」
「良いんだよ。君はこの花が似合うねえ。本当は花嫁さんに人気の花なんだけど、君は目の色も美しいし心も透き通っているから、とてもよく似合う」
「……そうだろうか」
「そうとも。この花を貰う人はさぞ君に信頼されているんだろう」
にこやかに話しながら、店主は手際よく最初に見せてくれた白い花を青い花と同じ鉢に植え替えた。
「はい、今日の分。君の大切な人に喜んでもらえるといいね」
「感謝する」
軽く笑みを浮かべて代金を支払い店を出ると、いつもパンが焼けるいい香りがする。
そろそろ人通りも増えてくる頃だろう。ウォーリアオブライトは両手に抱えた鉢に気を遣いながら、城へ向かう路地から逸れた細い小路へ足を急いだ。

「おはようガーランド。今日はよく晴れるそうだ」
静まり返った緑の芝生の中に、白い花が咲き溢れている場所があった。
小さな蘭のようなその花は、ウォーリアオブライトがいつの日か植えたもの。そして、彼が最初に買った花でもあった。
安らかに眠る魂を起こさぬよう、そっと近づいて祈りを捧げる。
「この花を、お前に」
先ほど店主が分けてくれた白い花を、ウォーリアオブライトはガーランドの名が刻まれた石にそっと添える。石に優しくキスをすると、ガーランドの魂と触れ合えた気がした。
抱えてきた鉢の花を石の周りに植えてゆく。毎朝欠かさず手入れをしていても、ふとした瞬間わけもなく苦しくなって目を閉じることがる。 石の横に立てかけられた大剣は主を喪い錆び付いていたが、そこから緑が生い茂り小さな花が咲いていた。

彼は、———ウォーリアオブライトは美しい青年のままであった。
だんだん年老いてゆくガーランドとは対照的に、彼は何一つ変わらなかった。ガーランドの手を最後に握ったのが何年前か思い出せなくなるほど年月が過ぎても、彼は老いることなくそのままで。
ガーランドはいつも「お前はいつになっても変わらぬな」と笑って、最後までその愛を変えることなく貫いてくれた。
周りの人がどんどん年を重ねていく中、まるで一人取り残されたように若いままのウォーリアオブライトの手を取り、不安を感じさせぬよう傍にいてくれた彼のことを、ウォーリアオブライトは褪せることなく覚えている。

「ガーランド……お前はいつか、また私に会いにきてくれるのだろう?」
———泣きそうな顔をするでない。これも輪廻の一幕にすぎぬ、わしは何度でも貴様の前に姿を現すだろう
永遠の眠りにつく前に、ガーランドは何度もそう繰り返してくれた。
「その日を、楽しみにしている」
ふわりと冷たい風がウォーリアオブライトの髪を巻き上げ、綺麗に植えられた花々を揺らしていく。
風の優しさがガーランドが頭を撫でてくれた感覚を思い出させ、ウォーリアオブライトは耐え切れず空を仰いだ。

#bcc7d7 orchid gray
綺麗に並んだ白い花も、お前の白い墓石も、前にすると頭に何も浮かばない。私の頭の中も、同じ色に染まる
ブルースター:幸福な愛、信じあう心
シラン(白):あなたを忘れない・変わらぬ愛
ジニア(白):亡き友を偲ぶ、変わらぬ心
ヘリクリサム(白):永遠の思い出