御者の俺

俺はバンジークス家の御者!いつもと同じようにお迎えに上がったら、何だか気まずい雰囲気のバロック様とお弟子様が乗り込んできたぞ

まぁこの2人はしょっちゅう喧嘩してはカラッと仲直りしてるのが常だし、俺の仕事は安全にお二人をお屋敷へお届けすることだから手綱を握って何事もなかったように馬を走らせたんだ。
そしたらしばらくして車体が震えるほどの振動があった、一瞬振り返ったけどバロック様からの連絡はないし問題ないのかもしれない。俺の仕事は馬車の御者!それ以外は専門外だからなかったことにしてまた馬車を走らせた
お屋敷に到着して扉を開けたら、真っ赤になってぐったりしたバロック様を支えるお弟子さんが出てきた。お弟子さんは俺に会釈をすると、
「師はずいぶん体調が悪いらしい。俺が部屋まで運ぶので心配は無用だ」
と微笑んで(この人東洋人なのにお顔立ちが本当に美しくて笑うと様になるんだよなぁ)バロック様を横抱きにされて歩き出した。
バロック様は当家でも一番体格が立派でお運びしようにも執事と二人がかりでやっとのはずなのだが、バロック様より小さなこの弟子はびくともせずシャンと背を伸ばした状態で難なく屋敷に足を進める。ははぁ、歩き方まで美しい方だ。
問題がないと判断したので馬車の扉を閉じて車庫へ向かおうとしたとき、俺は見てしまった。
お弟子さんとバロック様が、一瞬ではあったけど、その、口づけをしていたのだ!!
何ということだ……!!俺は呆然としてしまった。俺のバロック様……!!というショックよりも、(何と美しく絵画のようにお似合いの2人だろう……)と真っ先に思ってしまったことに。