こんにちは、モブ田モブ子です。
どこにでもいる普通のフリーター、近所のドラッグストアで深夜帯専属登録販売者をやっています。
一ヶ月ほど前、強烈なインパクトを残した屈強なおじ様と銀髪のお兄さんがご来店されてからというもの、どんなに個性的な(オブラートに包ませていただきます)お客様がいらっしゃっても何とか堪えることができるようになりました。
おじ様が超富裕層であると想定できるため、もうこの店には二度といらっしゃらないでしょうね……良い一期一会だった……。
思い出を噛み締めながら売り場の整頓をしていると、「すまない、訊ねても良いだろうか」と声をかけられました。
「いらっしゃいませ……、?!」
あ、あなたはあのときの銀髪のお兄さん!
まさかまたお会いできるとは思いませんでした。今日は横におじ様はいらっしゃらず、お一人でご来店されたようです。
「お悩みがございましたら、お手伝いいたしますよ」
「助かる。実はガーランド……家族が寝込んでしまったので、どうすれば良いか分からない。私は何を買えば良いのだろうか」
なるほど。
お兄さんはあまり表情が豊かではなさそうですが、とても心配されているのは伝わってきます。
時刻はもう日付が変わろうとしている深夜。
きっと心配でたまらず来てくださったのでしょう、うちが24時間やってる店舗で良かった!ありがとう偉い人!
「ではいつ頃からどのような症状が出ているのかお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「そうだな……」
う~ん悩ましげに伏せられた目すら美しい。
というかお兄さんまつ毛めちゃくちゃ多いし長いですね、やっぱり美人さんです。
「今日、さっき帰宅したと思ったら玄関先で倒れ込んでしまってな……。体がとても熱かったので熱を測ったら38℃を超えていた」
「それは大変でしたね。お怪我はございませんでしたか?」
「ああ、そこは問題ない」
「咳や鼻水といった症状は見られますか?」
「それはない……」
風邪の引き始めか疲労でしょうか。
鼻水や喉の痛みなどがないのなら、まだ症状自体は軽そうです。
「こちらの解熱鎮痛剤はいかがでしょうか、眠くなる成分が配合されていますのでゆっくりと体を休めることができますよ」
「ありがたい。最近働き詰めていたから、今くらいしっかり休ませてやりたくてな……」
お、お兄さん……!なんて優しいまなざし!そりゃあの屈強なおじ様もべた惚れになりますね。
表情は硬いですが、心から相手を思いやれる真っ直ぐな優しさ、そして深夜だろうとすぐに薬を買いに行ける行動力は私ですら惚れそうになってしまいます。
「恐らく疲労が蓄積して、免疫が弱っていたのかもしれません。熱を下げるために体はビタミンを消費します、ビタミンをたくさん含んだゼリー飲料を買われるとよろしいかと」
「なるほど。他は何がいい?」
「水分補給は大事ですね。寝ながらでも摂れるゼリーの経口補水液をおすすめします」
「そんなものがあるのか。ではそれを」
「それから食欲はどの程度ございますか?」
「……分からない。そもそも私は料理がとても苦手で……何も役に立てそうにない……」
あ、ああ~~!お兄さん!そんなつらそうに俯かないで!大丈夫、大丈夫ですよ!……と、脳内では手を振り回して精一杯お伝えしたいところなのですが今は仕事中。自我は殺さねばなりません。
「決してそんなことはないですよ。大切な家族がそばにいてくれるだけで心が落ち着くことも多いですからね。人間体が弱ると心も弱っちゃいますから」
「心も、弱る……」
「はい。普段は素直になれない方でも、案外心細くなっているかもしれません。お客様がそばにいてくれるだけで絶対に嬉しいと思いますよ!」
「そうか、……そういうものなのか。私がいるだけで、良いのか……」
「もちろんですよ!」
お兄さんは本当にあのおじ様のことが大好きなのですね。
おじ様を想うまなざしが本当に優しくて、何だかこちらまで胸が温かくなります。
「ひとまず水分とお薬で少しは楽になると思われます。それから食べたいものを訊くのも手ですよ」
「ありがとう、世話になった」
「いえいえ。それよりも早く帰らないとご家族が心配ですよね、お会計致しますのでレジへどうぞ」
「! そうだ、早くガーランドの元へ戻らないと……!」
うんうん、お兄さんも元気が戻って良かった!
お声がけされたときは思い詰めた厳しいお顔だったのに、今はもう憑き物が落ちたように朗らかです。
やっぱ顔がいい~~!当たり前ですけど活き活きとした表情になると本当にお顔の美しさと相まって眩しいです。
そしてあまり口数は多くありませんでしたが、お兄さんがおじ様のことをこれでもかってくらい大好きなのはよく分かりました。
本当にありがとうございました。
前も思いましたけど、もう本当にこのお二人最高です……。
末永くお幸せに!おじ様早く元気になってくださいね!
「では13346円のお買い上げでございます」
「この黒いカードで……」
おじ様~~~~~!!!!しっっっかりお兄さんにベタ甘じゃないですか!!!!!!