こんにちは、モブ田モブ子です。
どこにでもいる普通のフリーター、近所のドラッグストアで深夜専属登録販売者をしております。
今日もいつも通りレジをして品出しをしてまたレジに入る、そんな穏やかな日でした。
「いらっ…………?!い、いらっしゃいませ……」
たった今ご来店されたのは、店のドアよりも遥かに背が高い非常に大柄な男性と、これまた背が高く非常に美しいお顔立ちに神秘的な銀髪の男性です。
背を屈めて入店された屈強な男性とスラリとした銀髪の男性は連れ立って店の奥へ進まれました。
時刻は既に夜の10時を回っています。
こんな深夜にあんなに目立つ二人が一体何を買うのか気になって仕方がありませんでしたが、他のお客様がご来店されたので仕方なくレジに意識を戻しました。
「これを頼む」
ほどなくしてレジを訪れた屈強な男性が差し出したカゴには、……こ、これは……リューブゼリー?
しかも一番高いヒアルロン酸配合のお肌に優しいやつですね……。
次は介護用の吸水シーツとワイドサイズのペットシーツが一袋ずつ。
おしりふきにからだふき、それからのど飴ですね。
そして500ミリリットルの経口補水液が4本。
さらにロキソプロフェン配合の湿布、これは腰痛を抱えたお客様に人気の商品です。
「お薬のご説明はよろしいでしょうか?」
「ああ、結構」
大柄な男性が答える横で、銀髪の男性は(近くで見るとものすごいイケメンです、モデルとかやってらっしゃる?)少し気まずそうに視線を彷徨わせています。
「ガーランド、わざわざ薬など買わなくてもいい」
「何を馬鹿な、こないだ腰が痛くて立てんだの運べだの言って不貞腐れておったくせに」
「あ、あれはお前が手加減しないからだろうバカ!」
「戯言を抜かしおって、散々煽って『その程度か?全て受け入れてやる』などとほざいたのは貴様であろう」
「そんな話を今ここでするな!!」
…………な、何を聞かされているんだ?
どう聞いても雰囲気がただの痴話喧嘩です、えっお二人はもしかしてそういうご関係ですか?
この大量の吸水シーツってもしかしてリューブゼリーと一緒に使われます?一番高くてお肌に優しいやつってもしかしてこのお兄さんに使うんですか?
しかもポカリとかじゃなくて直接OS-1買われてる時点でもう脱水症状見越してますよね、今夜は一体何をされるんですか?!
「店員よ。ここに吸入用の酸素はあるか?」
「酸素でございますか……?」
「そうだ、登山用などの小さな酸素ならここにもあるだろう」
「しょ、少々お待ちくださいませ。至急確認致しますね」
酸素~~~~~?!?!?!
つ、つまりそれって息できなくなるくらい激しいことするってことですか?!
お買い上げされる方入社して初めて見ました。どういうことなの。そもそも存在自体知らなかったんですけどこの方は何度もこういうところで購入されてるんですか?
叫びたい気持ちを抑えつつ、スタッフ応援ボタンを押します。
今の時間帯はベテランの先輩がいるので、きっと知っているでしょう。
「先輩、酸素ってありますか?」
「健康グッズのコーナーにあるよ。お客様、少々お待ちくださいませ」
「うむ」
「そ、そんなものまで……!」
ああ~ついに銀髪のお兄さん顔が真っ赤です。これはビンゴ。
他のお客様がいらっしゃらない深夜帯で良かった!今日シフト入れてくれた店長に圧倒的感謝!
というか酸素うちの店にあったんですね。登山用らしいですけど絶対その用途では使われないでしょう。
「お待たせいたしました、こちらでよろしいでしょうか?」
「ああ、それを頼む」
「畏まりました、では14612円のお買い上げでございます」
「クレジット一括で支払おう」
「畏まりました、ではカードをお預かり致します」
……カードが真っ黒だ。これは相当富裕層の方と見て間違いないでしょう。
そんな方がなぜこんな庶民の愛用するドラッグストアへ寄られたのか皆目見当がつきませんが、もうお兄さんの照れ顔で全てがどうでもいいことにします。
お兄さん可愛いな……。まだお若い、もしかしたら未成年かもしれないですね。この屈強なおじ様とどこでいつお知り合いになられたんですか?
聞きたいことは山のようにありますが、私は店員。接客のプロ。余計な詮索は一切せずに笑顔でお客様をお見送りするのがお仕事です。
「こちらお控えでございます。ありがとうございます、またお越し下さいませ」
「うむ。……おいライトよ、荷物を持たんか。何先に店を出ようとしておる」
「知らん!私は先に車へ戻る!」
「あやつめ……。騒がしくして申し訳なかったな。失礼する」
屈強な男性は、見た目こそ高身長で威圧感と貫禄がすごく怖い方に思えましたが、物腰が低くたいへん礼儀正しいお客様でした。これが富裕層の余裕というものでしょうか。
先に退店された銀髪のお兄さん、耳まで真っ赤だったな……。大丈夫です、店員はお客様のこと無闇矢鱈とお喋りして広めたりしませんから。
それにしてもこんなラッキーなサプライズがあるなんて今日出勤して良かった!もうこれからどんなつらいことがあっても今日の出来事を思い出したら乗り越えていけそうです。
屈強なおじ様と銀髪のお兄さんがいつまでも幸せでありますように。
そう願いながらまた私は「いらっしゃいませ」と笑むのでした。